話しその19

 道路の左右が造成中の場所に出て、コンテッサ号を走らせていると、キャタピラー製のモータースクレーパー(土砂を積み込み、吐き出す、大きな機械)が動いていた。前後にエンジンの付いたタイプだ。工場内ではダブル・エンジンのモータースクレーパーは見ているが(だけでなく、ミッションの取り付けも手伝った。)実際に工事現場で動いているのを見るのは初めてだ。シングル・エンジンのモータースクレーパー(CAT631)は動かしたことがある。補助に三角履帯のD9ブルドーザが上がり坂でモータースクレーパーを押している。

 別の場所ではパワーショベルや、D5クラスのブルドーザが動いている。

 コンテッサ号を停め、機械の動きを眺めていると、小型パワーショベルの小松PC28uu(バケット容量0.1立法メートルクラス)のエンジンの調子が悪いのに気が付く。土をバケットにすくおうとすると、エンジンの回転が落ち、止まりそうになる。これは、燃料詰まりか、燃料内に水が混入している時の症状。オペレータはそれでも動かそうとしている。

 ジッとしていられなくなり、足元の土に注意しながらPC28uuに近づき、オペレーターに「この症状は燃料系の不具合なので、直さないとだめだよ。」と言うと、「修理屋なのか、だったら直してくれ。」。あまり手を汚したくないが、声を掛けた手前、診てやることになってしまった。

 エンジン・カバーを開け、最初にフュエル・プライマリ・フィルタを診ると、フィルタ内の水の混入を示す赤いリング(水に浮き、燃料の比重で沈む、プラステック製の輪)がケースの上の方に浮いている。フュエル・エレメント・ケースを診ると、こちらも水が入っている色をしている。

 マイナス・ドライバーとハンマーを借り、フュエル・プライマリ・フィルターとフュエル・エレメントのケースのナットリングを弛め、水入りの燃料を捨て、ケースを取り付けて、ナットリングを締め付ける。燃料タンク下のドレンコックを開け、タンク内の水を出しておく。さて、此処からが面倒。と、言うのは、PC12uuやPC28uuのエアー抜き用手動ポンプは、手がやっと入る狭い箇所に有るため、ポンプ・レバーを動かしづらく、又、手だけではなく差し入れた腕までも汚れる。長袖シャツを腕まくりして、手動ポンプ・レバーを上下に動かす。フュエル・プライマリ・フィルタとフュエル・エレメント内に燃料が一杯になるまで10分程掛かってしまった。(それでもPC50uuやヤンマーB6に比べると楽。前にいたリース会社では、あまりにも燃料のトラブルが多いので、PC50uuやB6には電磁ポンプを取り付けた。)一杯になると、レバーが重くなり、リターン・ホースに燃料が戻ってくるのが判る。これでOK、セルモーターを回し、エンジンを始動させ、回転を上げて、油圧ストール(旧小松パターンでは、左レバーを内側、右レバーを後ろ側、かつ内側に動かし、バケット、アーム、ブームが止まった位置で更に同じ方向にレバーを動かし、油圧をリリーフさせる事。)させ、回転の落ちを調べる。これでエンジンが止まらなければ、完璧。(古いエンジンで馬力が落ちていると、止まりそうになる事もあるが)オペレータに使って貰う。

 現場監督が来て、修理の支払いはどうしますかというので、無料でよいと言ったが、それでは申し訳ないと、現場事務所に来て欲しいと言われ、現場監督の乗用車の後をコンテッサ号でついていき、プレハブ作りの現場事務所に。

 現場監督から話しを聞く。「オペの機械への扱いが悪く、修理が多く、修理屋を呼んでもすぐに来ないので、現場の作業が遅れ気味になっている。そこで相談だが、もし良ければ、暫く此処に居て、私の会社の機械を診て、悪い箇所を修理して貰えないだろうか。勿論、報酬は相応を払う。」

 私としては、お金は幾らあってもいいものだし、たまにはこういうバイトも良いかなと、この仕事をすることにする。

 次の日から、2Tダンプを借りて、現場回りをする。機械総数は40台程有り、大はD8(CAT)、950C(CAT)から、ミニユンボのPU12UU(小松)、B08(ヤンマー)まで有り、4T散水車も2台有る。

 D8、950Cクラスはオペレータが決まっていて、機械管理は良いが、小さい機械はオペレータが決まっていないので、使い放題で、修理をしなければならない箇所が多い。2Tダンプに工具、グリスガン、オイルを積み、機械1台1台を診ていく。

 工事現場で使う重機は1年に1回はメーカー又は指定業者が点検をする年次点検(特定自主検査)が有り、JVなどに下請けで入る場合は受けていないと機械を使わして貰えない程だが、ここではまだ年次点検を受けていない。現場監督に年次点検の必要性を話し、今まで使っていた重機修理屋に行き、社外用の特定自主検査業者(社内用もある)で有ることを確かめて、修理屋と話し合い、検査資格(建設機械整備技能士2級以上が有れば検査を出来る)の有る私が検査用のテスター等を借り、検査をして、検査簿も私が書き、修理屋の名前だけを借りる事になる(借り賃1台5千円で)。メーカーにまともに検査して貰ったら、D8クラスだと10万円以上、950クラスで7〜8万円、PC20クラスで3〜5万円は掛かる。

 又、重機修理屋でオイル・エレメント、燃料エレメント、エアー・エレメントを揃え、全機械の特定自主検査、エンジン・オイル交換等を実施する。

 950C(ホイール・ローダー)のエンジンの調子が悪いというので、オイル・エレメントを外し、エレメント・ボディーを切り、中のエレメント紙を広げて診ると、メタル片が出ている。エンジン・オーバーホールが必要だが、何日も掛かるので、キャタピラー三菱(株)に連絡し、PES(パーツ・エクスチェンジ・サービス)のエンジン乗せ換えを依頼する。PESは少々割高になるが、1日で修理が終わる(エンジンの乗せ換えの時間だけ)。

 4T散水車のタンクへの水の吸い上げが悪く、診ると、ポンプのグランド・パッキンが減り、エアーを吸っているようなので、ポンプを分解し、グランド・パッキンを交換する。(普通はそのままパッキンは交換できるが、パッキン取り付けボルトが腐食で折れ込んでいたのでポンプ分解が必要になった。)

 PC50UU(小松)の排土板のエッヂがめくれ上がり、排土板本体まで摩耗していた。エッヂは小松から送って貰い、排土板を機械から外し、1日掛かりでエッヂの切断、溶接をする。溶接の作業の時は街の機械リース屋から溶接機を借りてくる。

 EX60(日立製パワーショベル)のエンジン冷却水が1日にラジエターの半分ほど減るとの事で診ると、外部漏れは無く、ラジエターに水を入れ、エンジンを掛けてラジエターキャップ穴から見ていると、吹き返しが出ている(気泡が出てくる)。これはエンジン・シリンダ・ヘッド・ガスケット不良が多い(他に、シリンダ・ヘッドの亀裂もある。)ので、ガスケット、パッキン類を日立から送って貰い、シリンダ・ヘッド脱着、ガスケット交換をする。シリンダ・ヘッド・ボルトの締め付けトルクは、トルク・レンチを使わなくてはならないのだが、無いので、経験からの、レンチの長さと力の入れ加減から、トルクをだし、締め付ける。このような作業の時はコンテッサ号を機械の側に持ってきて、タープを張ってその下でする。

 PC75UUの作業機が動かなくなった、との連絡で行くと、バケットがキャビンに当たらないように付いているセンサーの不良で、調べると配線の断線であった。アームに付いているセンサーのアーム・ロッドが作業中に物に引っかかり、センサーを必要以上に回してしまうと、センサー内のストッパーが壊れ、センサーを取り替えなければならない事が多いが(PC75UUでも新しい型ではカバーが付いている)、そうなると、簡単な構造のくせに高価なセンサーの何万円も掛かるので、今回はそれを考えると安く済んだ。

 4Tコンバインド(前輪は鉄輪で、後ろがタイヤのローラー)の散水の出が悪いという修理には、散水用ポンプを外し、ポンプの羽根(渦巻き型)の間にはさまった小石(錆もある)を取り除き、直す。1つか2つのノズルの出が悪いときはノズルの詰まりが有るが、全部の水の出が悪いときは、ポンプの不良か、ポンプ・モーターの不良、又はフィルターの詰まりが考えられる。

 B6(ヤンマー製小旋回パワーショベル)の欠点に、燃料タンクに燃料の少ないときに燃料ラインにエアーが入り、エアー抜きするハンド・ポンプがなかなか効かなく、燃料を送るのに苦労する、というのが有り、その為の対策として、電磁ポンプを燃料フィルタと燃料エレメントの間に入れるように改造する。

 PC20(小松製)の走行時、片側に曲がっていく(走行レバーを左右同じに動かし)という故障が有った。これは油圧ポンプの内部のシールが切れている場合が多い(時にはスイベル・ジョイントのOリング不良もある)。油圧ポンプは2系統に分かれていて、左右の走行も分かれている為、片方のポンプの油圧が低くなると、走行に影響する。

 油圧ポンプを外して、分解すると、案の定ボディとボディの間の細いシール(ひょうたん型のギア部ボディのシール)が1カ所つぶれていた。

 CAT307SSR(小旋回パワーショベル)のゲタ外れ修理は、キャタ張り調整用グリスのドレン・プラグを弛め、グリスを出して、キャタの張りを弛めた後、ゴム・キャタをワイヤ−で引っ張り(アームを使って)、元通りに入れ、グリス・ポンプでグリスを入れて、キャタを張り、終わり。

 雨の日は工事が止まるので、私は機械の点検、修理に忙しくなる。

 時々、現場監督の家に遊びに行き、息抜きをする。中学生の娘さんが2人いて、ドンと仲良しになっていて、一日中ドンと遊んでくれる。

 4ヶ月ほどして、機械の整備もだいたい終わり、ドンとの旅に出発する。